第三十六話 いきなりの階段パンチラ

 春香たちは少し遠出して、観光地から少し離れているけれど、ちょっと眺めがいいという公園にきていた。智子の事前のリサーチ通り、少し眺めが良い程度では人気がないらしく、まばらに人がいるだけだった。

 予想通りの状況で、久しぶりの外での配信ということもあり、智子に気合が入っている。

「お昼の配信。はじめるよー」

 前のチャンネルは使えなくなり、特に告知もしていないせいか、視聴者の集まりは悪かった。でもちょっと時間が経つと、不思議と人が増えていく。

 それなりの人数が集まると、智子は説明を始めた。

「はい。今日は『港が見えない丘公園』から配信しています」

『リベリオンだけ?』
『それどこだよ』
『キューティはいないの?』

 配信にはリベリオンしかいないのと、聞き覚えのない名前の公園の話題で、チャットは盛り上がっていた。なにしろ今回は、キューティがエロ担当に任命されて、初めての配信だ。それだけに事情を知っている人は、キューティに期待している。

「ちなみに丘の上にある公園で、港が見えないから、私が勝手にそう呼んでいるだけです。特定しようとしないでね」

『どこにでもありすぎ』
『背景にも特徴なし』
『それよりキューティは?』

 配信に乱入しようという人は、幸いにもいなかったが、純粋にどこだろうという興味はある。でもそれ以上に、キューティはいないのかというのが、ほとんどの人の疑問だった。

「そろそろ呼んじゃおうか。キューティ。こっちに来て」
「こんにちは」

 両手を振りながら、可愛らしく春香が智子に近づいていった。カメラに向かって挨拶する春香は、まさしくアイドルのように見えるのだが、その服装は今までとは大きく違っていた。

 いままでの春香は、スカートをはいても絶対に膝下だった。いつもと同じイメージの、薄いブルーのワンピースではあるのだが、スカートの丈が膝上で、ミニスカートになっている。

 上半身も露出が多く、ノースリーブになっていた。とはいえ、それでもいやらしさはなく、どちらかというと可愛らしさが勝っている。

『ミニスカキューティ』
『あらかわいい』
『エロって感じはしないぞ』

 一部、キューティがエロ担当になっていることを知っている人は、若干の不満を感じていた。首のあたりを深くして、谷間ぐらい見せてみろと、そんなふうに考えている。

 だがそもそも智子は、春香をエロ担当にしたとはいえ、簡単に脱がすつもりはない。むしろ可愛い春香が、嫌々ながらもエッチなことをしてしまうというシチュエーションこそが、大事なことだと思っている。

「キューティ。自己紹介をお願いね」
「はい。私は清純派美少女担当あらため、セクシー担当のキューティです。キューティスマイル!」

 いつも以上にキレのある、可愛いキューティスマイルだった。露出している腕や足が日光を反射して、ポーズに合わせてフラッシュしたように見えるくらいに決まっている。

『なにこれ可愛い』
『太ももがまずしいぜ』
『まぶしいだろうが』

「はい。というわけで私、スイートリベリオンと」
「私、ビューティキューティの」
「二人散歩がはじまるよー」

 実はカメラには映っていないが明美もいる。配信に参加する予定はないのだが、寂しいからと一緒に来ていた。今も陽子の隣で、もっと盛り上げてなどの、無意味なジェスチャーをしては、はしゃいでいる。

「この『港が見えない丘公園』は、丘の上に公園があるので、長い階段があります」
「えー、面倒。エレベータとかないの?」
「ありません。長いとは言っても、そこまで長くないので、一緒に頑張りましょう」

 二人が歩く背後から、陽子は撮影をしている。だから智子や春香がたまに振り返りながら、説明しつつ歩いていた。

「はい。ここから階段ですよ」
「長いよ。帰ろうか」
「ダメです。二人散歩なんですから、がんばってください。こないと配信に映らないですよ」

 そういうと春香は、先に階段をあがっていった。智子はわざと遅れるようにして、陽子たちと一緒についていく。

『神配信!』
『アングルえぐい』
『えっ、可哀想じゃない?』

 陽子は当たり前のように、下から春香のスカートを覗き込むようにして撮影していた。階段の角度が急だというのもあり、春香の広がったスカートの中が、丸見えになっている。

「キューティの白パンが丸見えです」

 まるで寝起きドッキリかのような、そんな小声でリベリオンは実況し始めた。もちろん春香は、下からスカートを覗かれているのを知っているが、隠したりはしない。むしろ見られていることに、ドキドキしながら喜んでいた。

(ああっ、私、パンツ見られちゃっているのに、気が付かずに歩いてる。そんなのありえないって思っているから、隠すことも考えないの……)

 あらかじめゆっくりと歩くように話していたおかげで、たっぷりと春香のパンチラを楽しむことができる。ときどき手すりにつかまって、お尻を突き出すようにして休むのが、一番のパンチラチャンスだった。

「早くいきましょうよ。二人で歩かないと、二人散歩にならないじゃないですか」
「わかったわよ」

 疲れたふりをしながら、おしりを突き出して振り返る春香のスカートの中は丸見えで、セクシー担当の名に恥じない姿だった。智子の誘導もあって、誰もそれがわざとだとは思っていない。

 セクシー担当になったとはいえ、春香はいまだに清純派のイメージが強い。そのおかげで、リベリオンが仕組んだエッチなハプニングとして、視聴者たちは楽しんでいた。

 当たり前だがリベリオンはスカートなどはいておらず、いわゆるパンツスタイルだった。そのせいで並んで階段をあがっていても、ショーツが見えるのは春香だけだ。

 たっぷりと白いショーツを晒したあとで、二人は階段をあがりきった。

「とうちゃーく。やっぱり長いわ」
「散歩ですから、それを楽しむんですよ」

 正面から二人を撮影すれば、さっきまでパンチラしていたなんて信じられないほどに、普通の女の子に見える。だがよく見れば、若干春香の頬が赤くなっていた。

 それはショーツを見せつけてしまったという恥ずかしさなのだが、視聴者は長い階段を上がったせいで、暑くなっているのだと、勝手に誤解している。

「んー。面倒だけど、公園の端まで行って、街並みを眺めてみましょうか」
「面倒ではなくて、それが今日の散歩の目的なんです」
「わかったわよ。二人散歩でしょ。行くわよ」

 智子は春香と腕を組むと、強引に春香を引っ張った。

「もう。急になにするんですか」
「ごめん。早く行こう」

 春香は頬を膨らませながら、ほとんど人気のない公園を歩いた。

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