第三十四話 布の向こうで素っ裸

第三十四話 布の向こうで素っ裸

 春香は潤んだ目をしながら、智子を見つめていた。目で許してと訴えながらも、カメラの前でショーツを脱ぐという行為にドキドキしている。

「そんな目で見てもだめよ。すぐにショーツを脱がないと、衝立がどっかに移動するかもよ」
「待って。脱ぎ、ますから」

 春香は布から体を離すと、サヤカに背中を向け、つまりカメラから見れば横をむくようにして、ショーツを脱ぎ始めた。さすがにどうやったところで、すべてを隠すことはできず、智子にプリンとしたお尻を見られてしまう。

「きゃっ、お尻丸出し」

『ころべ!』
『ショーツが見えた』
『うぉぉぉ、念力発動』

 少し開いている衝立の下から見える足を、すばやくショーツが駆け抜けていった。右手の指先にショーツをひっかけながら、春香は胸と股間を手で隠すと、顔をそむけたまま正面を向いた。

「もらうわね」
「あっ」

 智子は春香のショーツを手に取ると、カメラの方へと見せつけた。

「キューティの脱ぎたてショーツよ。真っ白でデザイン性の薄い、まさしく清純なイメージ通りよね」
「見せないで……」

『あれがキューティの股間を』
『陰毛とかついてたらくれ』
『キューティは生えとらんぞ』
『新参だな』

 春香が身につけていたというだけで、ただの下着にチャットは盛り上がっていた。智子はちらっとチャットを見て、やはり簡単に裸を見せることはできないと、あらためて考えた。

 もともとたっぷりと焦らすつもりだったが、よりその気持を強固にする。

「キューティ。大の字になってよ」
「えっ」
「えっじゃなくて。衝立で隠れてるんだからできるよね? 見えないから大丈夫よ」

 衝立で隠れていても、春香はずっと両手で体を隠している。見えてないとはわかっていても、どうしても隠したくなるのが当然だった。

 なのにサヤカは、衝立という名前の布の向こうで、春香に大の字を要求する。そんなポーズになってしまえば、いざという時にも隠せない。

「でもっ」
「どうやらキューティは衝立がいらないようね。グレープ。この衝立を……」
「やります」

 必死な春香を見て、智子がにぃっと口角を上げた。

「なら早くやる。すぐにやる。いつまで隠しているつもり?」

 春香はぎゅっと目をつぶりながら、両手を左右に開いていった。智子からは乳房が丸見えになるけれど、もちろん布に隠されて、カメラには春香の顔と足しか映っていない。

「足も開く!」
「きゃっ」

 智子に足首を捕まれ、無理やり足を開かされたせいで、グラッと春香はバランスを崩した。春香の顔は布に隠れ、そのまま転ぶと期待されたが、すっと布から顔が出てきた。

「やりますから、やめてください」
「早くやればいいのよ。ころんでも良かったのに」

 後半は春香にしか聞こえない小さな声だった。そんなささやきを聞いた春香は、転ぶのは不可抗力なのだから、それで見えても良かったと後悔する。でも春香は、自分が隠したいと思っているからこそ、見られたときに興奮するのがわかっている。

 むしろ流れに身を任せ、見せまくるようになってしまっては、なにもドキドキできないと予感していた。

「そんなの、絶対無理です」
「ふふ、まあいいわ。よしっ、それくらい大の字になるなら、私も無理は言わないわ」

 春香は何もされないように、しっかりと足を開いていた。まさしく大という字にふさわしい、堂々とした大の字だった。ただやはりポーズ自体が恥ずかしくて、まともに正面を向くことはできず、目を閉じながら春香は顔を背けていた。

 春香が見ていないのをいいことに、智子は明美と結託して、衝立の幅を狭めていった。

 最初は安心感があった横幅も、春香の体の幅よりもちょっと大きいくらいに狭められてしまった。大の字になった手や足が、衝立の横からも見えている。

『見えるぞ』
『リベリオン!』
『あっ』

 もう少しで見えるというところで、智子も明美も衝立の移動をやめてしまった。でも幅が狭まることで、張っていた布もたるんで、春香のデコルテまでも見えてしまう。

 なのに春香は目をつぶり、全く気がつく様子はない。だが実は事前に聞いているので、羞恥と興奮で体を震わせながら、余計なことまで考えていた。

(本当に衝立を狭めてるの? もしもやりすぎたら、おっぱいまで見えちゃうよぉ)

 まるで智子が暴走して、幅を狭めてくれと願っているかのようだが、妄想しているだけで、それを望んでいるわけではない。見られるかもで興奮してしまう春香は、逆に見られない時間が続くことで、本当に見られた瞬間の爆発を感じたかった。

「キューティ。大の字のまま動いちゃだめよ。動いたらひどいことになるからね」
「えっ」

 智子の言葉に目を開けると、自分のとんでもない状態に気が付いた。事前に聞かされてはいても、やはり実際にやると想像以上に恥ずかしい。ちゃんと衝立で隠れているのに、動いちゃだめだとも言われたのに、右手で乳房を、左手で股間を隠してしまった。

「なんで動くの? やりたくないのに、キューティに罰を与えなきゃだめじゃない」
「そんなっ、許してください」
「グレープ。気が進まないけど、あれを準備してくれる」
「いいわよ」

 天井から衝立と同じくらい大きいサイズの、バスタオルがおりてきた。

 バスタオルは左右の端に紐がひっかけられ、上から吊るされていた。その紐は途中で一本になっており、天井の滑車を経て、明美の手におさまっていた。バスタオルがよれたりねじれたりしないように、タオルの上部に棒が添えられており、ひらひらはしても変形しないようになっている。

「この吊られたバスタオルで隠れるから、衝立はいらないよね」
「あっ、待ってください」

 智子は春香の制止を聞かず、衝立を持つと画面外に運んでいった。吊られたバスタオルは、最初の衝立くらいに大きくて、しっかりと春香を隠してくれるのだが、吊られた部分を起点にして、ゆっくりと回転してしまう。

 でも縦になって丸見えになることはない。幅があるおかげで、春香の体に当たり、反対方向に回転することで、また春香の体に当たる。そのおかげで縦になることはなく、春香の裸がカメラに映ることもなかった。

 そんな春香の左右に、智子と明美がスタンバイをした。バスタオルは春香の首から下、太ももの半ばから上を隠しているが、紐の先はいまだに明美が握っている。もしも明美が手を離せば、バスタオルは床へと落ちてしまうだろう。

 なにより衝立のときよりも、足の露出が増えていた。感のいい視聴者は、明美の手が春香の顔の高さにあるのを見て、もしかしてと期待を膨らませている。

「私が手を離したら、キューティの裸が丸見えになっちゃう。でもぉ、そうなったらキューティがエロ担当でいいよね」
「そんなっ、生着替え勝負のはずです」
「でもなんだか手が疲れてきちゃったな。エロ担当もそれで決まるし、どうしようかリベリオン」

 春香の全裸が拝めるかもと、一気にチャットが盛り上がった。

「いくら罰でもそれは可哀想でしょ。キューティ本人に決めさせましょう」
「だっ、だったら私はエッチ担当にはなりません。もうやめてください」
「ならキューティは、絶対にバスタオルを床に落とさないわよね」
「はい。落とさないです」
「だったら両手を後ろで組んで。バスタオルがあるからいいわよね」

 売り言葉に買い言葉。腕というセーフティを失うことになるが、春香は絶対にバスタオルは守るという意思のもとに、両手を腰のあたりで組んだ。智子は用意していた紐を使って、わりと強めに両手を拘束した。

 これはフリでもよかったのだが、いざという時に腕が動いたら、妙な誤解や疑いを生む可能性がある。それを防ぐために、本当に拘束したのだ。

「ではこれを咥えてね。私の提案で、丸いボールをつけてあげたから」
「まさか、口で?」
「そうよ。手は使えなくしたし、そのボールを咥えていれば、バスタオルは落ちないわ」

 これだけでチャットは盛り上がっているが、まだまだ説明が足りなかった。

「大体十分くらいね。放送終了まで耐えられたら、キューティのエロ担当は白紙にしてあげる」
「それくらい、絶対に耐えてみせます」

 明美の持つボールを春香が咥えると、羞恥の耐久ゲームが始まった。

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