第三十二話 エッチ担当なんて無理
- CATEGORYエッチ担当になっちゃった編
- COMMENT0
- TRACKBACK0
智子たちは準備をすると、告知することもなく配信を開始した。明美の配信部屋が使いやすく、最近の配信は、すべてここから行われている。
「いきなり配信はじめるよー」
ある程度人数が集まったのを確認すると、智子が開始の宣言をした。幾度もチャンネルが閉鎖されているのだが、最近はエッチな配信はしていないので、比較的このチャンネルは長続きしている。そのおかげで最初から、たくさんの書き込みがチャットに流れていった。
『リベリオンきた』
『今日もオレンジがいない』
『キューティ。こっち見てぇ』
『ってかグレープもいないじゃん』
今日の配信の目的は、春香にエッチ担当を納得させるというものだった。だがもちろん春香は最初から納得しているので、いわば茶番が配信される。
「慌てちゃだめよ。オレンジもグレープも後から登場する予定なの。そして今日の企画を発表します。ドゥルルルルル……」
智子は口でドラムロールをしながら、流れるチャットを眺めていた。相変わらず『キューティおっぱい見せて』とか、品のないチャットもあるけれど、最近ではかなり減ってきている。
「ルルルルル、ジャンってことで、それぞれの担当を決めまショーです」
『担当?』
『担当って、たしかキューティが清純派美少女担当だよな』
『そんな設定あるんか』
三人が配信をはじめた最初の方でしか、担当の話はしていなかったせいで、誰が何を担当しているのか知っているのは、一部のコアなファンだけだった。
「そう。知っての通り、私はMC担当でしょ。でっ、キューティ。あなたの担当をダブルピースしながら教えてあげなさい」
「はい。自分でいうと、恥ずかしいんですが、清純派美少女担当のキューティです。って、なんで私、ダブルピースしてるの?」
春香の頬に手を付けた両手のダブルピースは、相変わらず可愛かった。
「ふふっ、なぜなら私はMC担当って、マインドコントロール担当じゃないのよ」
「多分わかりにく過ぎて、伝わらないよ」
智子の提案で芝居をしてみたが、恥ずかしすぎて春香は真っ赤になっていた。なのに智子は平然としたまま、『そんなのいらねぇ』というチャットを受け流している。
「というわけで、私はいわゆる司会ってやつを担当するの。そしてぇ、オレンジ」
「撮影担当オレンジだよ。グレープ」
「賑やかし担当のグレープです。みんな盛り上がれ!」
っと、二人はいきなり登場しながら、自分の担当を説明した。ただ明美も頑張ってはいるけれど、『盛り上がれ』で盛り上がるほど、配信は簡単ではない。むしろ智子たちの配信では珍しく、最初から滑り続けているような状態だった。
「でね。今まではこういう担当だったけど、新しくしようと思うんだ」
「いいけど。私は撮影担当から変わらないよ」
「そうね。オレンジは超撮影担当に変更よ!」
「りょうかい」
「今まで以上にスペシャルな撮影を頼むわね」
配信を見ているほとんどの人間は、ただ悪ふざけをしているようにしか思っていない。だが一部のコアなファンは、智子の『スペシャルな撮影』という言葉に期待していた。
「でぇ、グレープは枯れ木担当ね」
「枯れ木って、山のにぎわいってこと。 ひどくない?」
「ん? あれ、あっ、やばい。あれってつまらないものでもっていう意味だよね」
『リベリオンひどすぎ』
『グレープは枯れ木じゃない。紅葉だ』
「じゃあグレープは紅葉担当ね。私たちを赤い紅葉で彩ってよ」
「了解。それならいいわ」
しばらくはグレープがメインになることはないので、いわゆる賑やかし担当のままで、担当名が変わっただけだった。というよりも、メインは春香の担当替えなので、ここまでは前座でしかない。
「私も超MC担当になるわ。だからキューティは……」
「えっと、超清純派美少女担当?」
顔を赤くしながら、春香は智子に問いかけた。
「キューティはエロ担当よ!」
「エロ? えっ、いやっ、何を担当させるつもりですか」
最初はわからなくて『エロ』と口にした後、そんなことをできるはずがないと、全力で否定した。だが全ては打ち合わせどおりに進んでいる。
『おいおい。まさかのエロ担当』
『キューティおっぱい見せて』
『エロ担当、いいね!』
「ほら、チャットのみんなも喜んでるよ」
「無理です。喜んでくれるのは嬉しいですけど、その、えろ担当なんて、できません」
恥ずかしそうに『エロ』のところだけ、声が小さくなっていた。すでにそんな春香の姿だけで、配信を見ている人間たちは興奮し始めていた。もちろんいままで配信してしまった、キューティの恥ずかしい姿を大半の人間が頭に思い浮かべている。
「だってもう、キューティってすっごいエッチな配信してるよ」
「そ、それとは別です。やりたくてやったわけじゃないです。っていうか、もうそんなの忘れてください」
「多分録画もされてるし、めっちゃ流出してると思うけど」
「だめです。みなさん消してください。あ、頭の中からも、消し去ってください」
春香が真剣に訴えるほどに、誰しもが絶対に保存しておこうと決めてしまう。中には春香の裸を壁紙にしながら、配信を楽しんでいる猛者もいた。
『わかった。キューティのお願いなら消すよ』
『俺も消したよ』
『消すからおっぱい見せて』
『あれっ、今なんの話をしてたかな?』
消す気はなくても消した演技を続けるチャットの中に、品のない言葉も混ざっていた。とはいえそれこそが、本当の枯れ木だと智子は思っている。
「ありがとう。でも、見せないですからね」
めっというように、人差し指でカメラをつついた春香の仕草に、大半の男はノックダウンしていた。あのとんでもない姿の春香とのギャップに、ネットの向こうで男たちが悶えている。
「でもなぁ。私はキューティにエロ担当をやってほしいな」
「私も見たい。そしてそれを超撮影するよ」
「みーたーい。みーたーい。わーたーしーもーみーたーい」
それぞれの担当に合わせて、明美たちも頑張っていた。最初は空回りしている感じだったのに、キューティのエロということでチャットの人たちも一つになっていた。
『俺も見たい』
『おっぱいが見たい』
『キューティの裸は最高』
『美少女を愛でろよ。変態しかいないのか』
春香がもしもチャットを見たならば、欲望に真っ直ぐな言葉よりも、『愛でろよ』のほうが気持ち悪く感じるだろう。だが幸い春香は見ていないので、そんなチャットも電子の波に消えていった。
「なんて言われてもできません。グレープさんだって、もしもエッチ担当って言われたら、できないですよね」
「うーん。やるよ。頑張るよ。期待されてるならやっちゃう。でも、今回はキューティが期待されてるからね」
「だ、だったら、私が期待します。グレープさんがエッチ担当になってください」
「えー、そんな事言われてもなぁ。どうしようか。リベリオン?」
すでにどうするかは決まっているが、あえて智子は腕を組みながら、ぐっとうつむいて考えていた。そんな智子の姿に、いやでもチャットが盛り上がっていった。
『リベリオンならなにかやる』
『むしろダブルエロ担当ってか』
『意表をついてオレンジがエロに』
『まてよ。それならみんな仲良く素っ裸配信だ!』
好き勝手な妄想が流れていくチャットを一瞥したあとに、智子はゆっくりと口を開いた。
「どちらがエロ担当にふさわしいか。キューティとグレープの、どっちが相応しいか対決をするのよ!」
「えっ」
「いいね。やってやるわ。そしてやるからには勝つ!」
「いや、勝ったらエロ担当だよ」
「私の勝負に負けはなし」
陽子のツッコミにも負けず、明美は勝利宣言をした。
『なんでだよ』
『負けず嫌いすぎだろ』
『キューティがんばってー』
『グレープのおっぱいなら初見……』
なぜかエロ担当というだけで、乳房を見せてもらえると思っている人が多いが、そんな過激な配信が普通はできるはずもない。リベリオンだっていきなり裸とかは考えておらず、春香をエロ担当にしたあとで、じっくりと楽しむ予定だった。
「せっかくだからたくさん対決しちゃうよ。最初は生着替え対決ね!」
智子の宣言に、チャットは一気に盛り上がっていた。
- 関連記事
-
- 第三十一話 変化した春香の日常 (2023/01/25)
- 第三十二話 エッチ担当なんて無理 (2023/01/28)
- 第三十三話 配信で生着替え (2023/01/31)
- 第三十四話 布の向こうで素っ裸 (2023/02/04)
- 第三十五話 春香の潮吹き生配信 (2023/02/11)