第三十一話 変化した春香の日常

 自らのお料理チャンネルで、お尻や乳房を露出してしまった春香は、学校でも話題になっていた。幸い学校側の人間で、問題にしている人はおらず、もっぱらクラスメートが一番盛り上がっている。

 盗撮動画で脅されているのだろうと予測はしていても、なんで見せてるのと思うほどに、はっきりと乳房を丸出しにしてしまった春香には、クラスの男子も声をかけにくくなっていた。遠巻きにしながら、こそこそと会話する感じになっている。

 クラスの女子たちは、『春香が可哀想w』という雰囲気で、誰も本気で心配している人はいない。別に春香は嫌われていたわけでもないけれど、クラスの中でも抜き出た美少女である春香への辱めは、女子たちのもつ何かしらの溜飲を下げていた。

 そんな女子たちの蔑みや嘲りの視線や噂話は、春香にとってはごちそうだった。

 顔を赤くしてうつむいているけれど、春香はただ恥ずかしがっているわけではなく、羞恥で興奮してしまっている。

 誰もそんなこととは思わずに、男子は純粋に可哀想と思いながらも、春香の裸を思い出しては、欲望を滾らせていた。むしろまた配信しないかなと、邪な期待をしているのだ。

 それがわかっている智子は、あの料理配信以来、エッチな配信はさせていない。ショックがあったという設定で、春香は普通の配信すらしていなかった。

 ただキューティはショックを受けているはずもないので、新メンバーのグレープを含めた四人での配信はしている。もともとあまり話さないキューティを不審に思う人もいないが、こっちの配信でも、また脱がないかなと、期待される存在になっていた。

 もちろん直接要望をぶつけてくるチャットには、キューティはかわいい担当なの、エロ担当とは違うのよと、智子が釘をさしている。

 これが後の伏線となるのか、智子も深く考えてはいないのだが、いざキューティをエロ担当に堕とすとなったときに、そこから準備するのは面倒なので、いちおう舞台を整えていた。

 ただ春香自身も、実は戸惑っていることがあった。それはキューティとして、全裸や絶頂姿まで、世界に配信してしまっているのに、春香として乳房を露出したときのほうが、より恥ずかしくて気持ちよくて、興奮していたことだ。

 まだそれは誰にも話していないけれど、少しづつ春香の中で大きくなっていた。だがもしもそれを実現すれば、おそらくは春香は破滅することになるだろう。

 なのに春香は欲張りだった。

 春香として脱ぎたいと思いながらも、キューティとして脱ぐのがつまらないとは思えず、智子が春香を脱がすための下準備をしているだけで、体の奥がウズウズして、期待せずにはいられなかった。


「さすがにおっぱいを見せたら、クラスメートの態度が変わったみたいね」
「うん。そうだね」
「もともとそんな感じだけど、春香に話しかけないよね。私たち以外」

 クラスメートの変化を見て、智子が春香に問いかけていた。陽子は何も変化はないかもと思っていたのに、春香もいる教室で、聞こえないようにひそひそと噂をしているのが意外だった。しかも聞こえていないと思っていても、実際には春香に丸聞こえだった。

 それが春香を興奮させているのだが、それ自体は陽子も『しょうがないな』としか思っていない。

「教室で全裸になっちゃう?」
「えっ、私が、教室で、裸に……えへへ」

 智子の一言で、春香は妄想の中に飛び立ってしまった。どう考えても教室で全裸になる理由はないので、春香が脱げるはずもない。

「ちょっと。春香があっちの世界にいっちゃったじゃない」
「やっぱりそういうのがやりたいんだよね。でもなぁ」

 智子もどうしたら春香が楽しんでくれるのかと、必死に考えていた。

「焦ることないでしょ。むしろ露出はじっくりゆっくり。一気に望みを叶えたら、それで全ては終わるんだから」
「露出好きなだけあって、春香の気持ちがわかるのね」

 勝手な想像の中に入った春香と智子は放置され、明美と陽子が相談している。

「まあね。望みを叶えたら、次はさらにとエスカレートする。そうなったら、最後は破滅しかない。だから目標を決めたなら、どれだけ刻んで楽しむかが肝よね」
「そうなると、春香はどうしたら良いのかな」
「きっと春香は春香として恥ずかしくなりたいのよ。でもね。それを叶えるわけにはいかない。せっかくキューティっていうキャラがあるのだから、それを利用しなくちゃね」
「つまり、前に言ってたエロ担当ってこと?」
「すぐにはしないわ。それもしっかりと刻んで進むの。エロ担当になるまでも、エピソードがなくっちゃね」

 明美の中では、いろいろ構築されているようだ。陽子はとくにアイディアを出さないが、基本的に春香が楽しめるならば、なんでも良いと思っている。

「うーん。名付けて『エッチなキューティ誕生 エロ担当への道』よ」
「長いわ」
「だったら『エロ担』とか?」
「略しすぎ」
「もう。そんなこと言うならおっぱい見せるよ」

 脱ぎたがりの明美は、ことあるごとに脱ごうとする。智子はそれをどうでもいいと思っているが、陽子は気分じゃないので、あっさりと明美を制止した。

「止めて。そもそもタイトルとかいらないし、何を切っかけにエロ担当にするわけ?」
「これだけ脱いでるんだから、もうエロ担当になりなよ。いやよ。なりなよ。いやっ。だったらうへへって感じじゃない?」
「うへへ、ねぇ。そこを相談して決めるってわけね」
「そう。だってそこが重要だもの。キューティはエロ担当になりたくない。私たちはそうなって欲しい。いやならなにかにチャレンジして、あわれエッチなことになって、やっぱりエロ担当がお似合いよって感じね」

 話し合うと言いながら、明美の中では、かなり決まっているようだった。陽子も智子と明美がいれば、面白いことになりそうだと、なんだかワクワクしてしまっている。

「任せるわ。その代わり、私がすべてを撮影する」
「もちろん。エッチに撮影してね」

 妄想している二人を差し置いて、陽子と明美はぐっと握手していた。
 
 仲間たちの協力により、春香はこれからも露出を楽しんでいけるだろう。それがいつまで続くのかは、すべて春香次第なのだ。

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